北京雑感―45

北京の行く末は?

 

 先日、早々と上海万博に行って来られた方が、万博会場のトイレがきれいに使用されていたりパビリオン見学者が長時間じっと並んでいたりと、中国の人々のお行儀が随分良くなったのに感心し、「中国はこれからぐんぐん良くなるだろう」との感想を述べました。と、すかさず、「万博が終われば直ぐ又元に戻りますよ。オリンピック後の北京のように……」という声があがりました。

 オリンピック後の北京について、何人もの方々から、バスや地下鉄の乗り降りは、すっかり昔に戻ってしまったと聞きましたから、「上海も、万博が終われば元に戻ってしまうだろう」との声に、思わず頷いてしまいました。中国が好きで、特に公共交通の「ご愛用者」としては、中国の人々が少しでも早くスマートな整列乗車を身に付けて欲しいと願っていますが、やはり、一朝一夕では無理だと思います。

 私が北京のマナー向上作戦を見たのは、オリンピックの半年前の頃でした。バスの乗り場に、赤やオレンジ、グリーン等派手なベストを着て、手に旗を持った係員が出て、バスの到着と同時に我先に乗り込もうとする人々を制止し、降りる人が終わってから順番に乗るよう指導していました。

 しかし、北京のバス停も運行ダイヤも、整列乗車には向かないように出来ていると感じました。一般的に、北京のバスの運行時刻表はありません。○○路線のバスが何台も続いて来るかと思うと、長いこと待たされることもあります。それで、待っている人々はどうしてもこのバスに乗ろうという気持になります。

一度、混んだバスに乗り合わせて、北京らしい光景に遭遇しました。北京のバスの多くは、前から乗って中ほどのドアから降りるのですが、前の方にいた人が降りたいのに降り口まで来られず、前のドアから降りようとしました。当然、乗ってくる人と鉢合わせで降りられません。乗る人々のスピードもおちて、乗り口付近で人の塊ができました。

入り口で人の流れがもたついている間に、後の降車口から降りる人がいなくなると、運転手さんがドアを閉める前に、後ろの方で並んでいた人の中から何人かが、この降車口から乗り込んで来たのです。前の方で整列乗車を指導していた係員が慌てて飛んで来て制止し、運転手さんも急いでドアを閉めましたが、既に6,7人が乗り込んでしまいました。前の方の混乱も収まって、バスがやっと発車の体制に入った時、後ろで待っていたバスが、前の方の空いたスペースに乗り入れてきました。

 

整列乗車のキャンペーンが始まってからは、同じ路線のバスは、前のバスの乗降が終わるまで後ろで待つようになりましたが、今回は、前のバスの遅れに痺れをきらせたのでしょう。すると、行列していて乗れなかった人々が殺到し、そのバスの周りに人だかりが出来ました。私の乗ったバスはやっとドアを閉めて発車の体制になったのですが、前に入ったバスが邪魔になって発車できず、更に遅れる結果になりました。

 一部始終をバスの上から見ていて、マナー向上といっても、人に対する教育ばかりでなく、バス内で降り口に移動し易くする工夫や運行時刻表の整備を含めたハード面を工夫しなければ難しいように思いました。バス停では、どのバスも目的地を通るので、早く来たバスにどれでもいいから乗りたい人が待つ場所もいるでしょう。しかし、路線が多く、従って乗降客も多い繁華街のバス停では、どのような工夫が出来るのか、難しい問題です。とはいえ、人間の教育不可欠ですね。

 この問題を考える時、思い出すのは、4,5年前の国慶節に、前門へ出かけた折の光景です。正陽門の周りに芝生の広場があり、芝生の中を1.5m程の歩道が走っていて、人々がひしめくように歩いていたのですが、急に人の歩みが止まってしまいました。

 どうやら前方で人の流れが衝突して動かなくなってしまったようです。芝生の中は人の列が全く動かないのですが、芝生の向こうでは人の波が動いています。芝生には立入禁止の札はありますが、柵も何も無いので、ヒョイと芝生に入って向こう側へ行きたくなりますが、芝生の中で係員が見張っているので人々は大人しく待っていました。

 ところが、5分経っても10分経っても人波は動く気配がありません。すると少し後ろの方にいた5人連れが芝生を歩き出しました。当然、係員が飛んで来て、列に戻るように注意しますが、相手は5人で制止を無視して進みます。

 係員が中の一人に的を絞って前進を阻んでいる間に他の4人は渡り終えてしまいました、残された一人は仲間の後を追おうとするのですが、係員もこの人だけは通すまいと意地になっているようで必死の攻防戦を繰り広げていました。それを見ていた人々が、どんどん芝生に入り込み、もう係員がどんなに頑張っても制止できない状態になってしまいました。

 この出来事で、北京の人の力――人の数の力を見たような気がしました。このパワーで、赤信号の交差点を堂々と渡ってしまうのです。でもこの力、不便を感じなければ発揮されません。これからの北京では、人々への教育と、設備・ルールの整備によって、数を頼んだ不法行為が見られなくなることを期待します。

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