北京雑感―34

気候の変化

 今年は、日本各地で、4月初旬というのに、真夏日と言われる最高気温30度寸前の気温を記録する日が何日もあり、「観測史上初」とか「2番目」とかの文字が新聞紙上を賑わせました。満開の桜の下を半袖のTシャツで、日差しを遮りながら歩く若い女性の映像がテレビに映し出されたりもしました。

 こんな光景を見ながら、私は、初めて北京で過ごした時のことを思い出しました。私が初めて滞在を予定して北京に出かけたのは、19994月初め、清明節の頃でした。成田では厚手のコートを羽織って出発したのですが、北京に着いて10日もすると、そんなコートが邪魔に感じられるようになりました。旅行で晩秋の北京に出かけた時、北京の秋は日本の秋よりも進行が早いなと感じましたが、春も同じでした。まだ4月中のある日、急に気温が上がり、暖かいのを通り越して暑くなりました。さすがに陽が落ちると涼しくなりましたが、その涼しさを心地よく感じる程、日中の暑さは強烈でした。

 日本では、春先、たまに暑い日があっても、12日で元に戻り、徐々に暖かくなってやがて梅雨入りし、7月に入ってから梅雨が明けて、いよいよ夏到来となりますね。最近は気候が不順とは言っても、凡そこのパターンで夏がやって来ます。北京で初めて4月の暑い日に遭遇した時、この暑さは2,3日で終わり、またセーターが丁度いい気温になるのだろうと思いました。ところが、日中のこの暑さはそれから毎日続きました。気温が何度だったのか正確には分かりませんが、初めての私にとっては、昨今話題になっている、「真夏日直前――つまり30度近い温度」に感じられました。ですから、今年の異常に暑い日を体験して、「北京の春はいつもこんな様子だ」と懐かしく思い出しました。

 「北京には春が無い」とは以前から聞いていましたが、このとき実感しました。この急な暑さに私はビックリしましたが、北京の人々には何の不思議もないことのようで、暑くなったその日から、半袖・袖なしを着て颯爽と街を歩いていました。日中は真夏と同じような服装ですが、夜になるとそのままでは薄ら寒く感じるので、皆さん上着を用意していました。冬の寒さが終わると直ぐに日中の暑さがやってきますが、北京の季節の移ろいは夜の気温で感じます。4月の夜はしっかりした上着が欲しくなりますが、5月には薄手の上着、6月からは何も要らず、夏になったと感じます。

 北京で初めて体験した春の到来は、非常に印象的でしたが、その後の体験から、北京の季節の変化は、どれも急激でキッパリしていると感じました。前にも書きましたが、7月の終わりごろ、日本と比べれば凌ぎ易いけれど、やはり厳しい暑さに気息奄々としていた時、古老の「あと10日もすれば秋がやってくる」と言う一言に、信じられない思いでしたが、果たして、8月の10日過ぎには朝夕急に涼しくなって来ました。日中の暑さは、7,8月も9月も変わりないのですが、陽が落ちてからの温度が段々に低くなり、10月のある日、前日と同じように晴れていても、急に寒くなります。

 日中だけを見ると、夏から急に冬になるような印象を受けます。これが、北京には春(秋)が無いといわれる所以でしょう。初めて北京で1年半を過ごした時は、その間の季節の移り変わりが全て新鮮で、東京との違いばかりが目に付きました。夏も、気温は高くて、35度以上の所謂「猛暑日」が続きましたが、空気が乾燥しているので、日陰ではホッと一息つけて、気温の高いわりには楽でした。私はそんな北京の夏が好きだったのですが、この10年の間に、北京の夏が変わったような気がします。

 以前、北京の夏は雨が非常に少なかったと思います。午後、何の前触れも無く、急に文字通りバケツをひっくり返したような夕立が降り、小一時間で止むのを何度も経験しましたが、梅雨のある日本から行けば、降水量はともかく、雨としては無いに均しい印象でした。それが、4年ほど前の夏のある日、朝起きたら、窓の外で雨がしとしとと降っていたのでびっくりしました。その年はそんな雨が何回か降りました。それと同時に、夏のさっぱりした暑さが影を潜めて、日本と同じように湿気を感じる暑さになってしまいました。それ以後、そんな夏が続くようになり、私にとって、北京の魅力が一つ消えてしまいました。

 しかしながら、今も変わらぬ北京の魅力は、環状線の中央分離帯で今頃から咲き出す庚申バラの花です。私は、北京の街角は花が少ないとの印象を持っていたのですが、分離帯のフェンスに絡まって咲くこのバラで、北京の街を見直しました。因みに、北京っ子はこの花をバラ(?瑰)とは呼びません。月季と言います。私には原種に近いバラと見えるし、日本名も庚申バラというのですが、北京の人々は、「?瑰(メイクイ)ではない、月季(ユエチー)だ」と言って譲りません。名前はどうであれ、この花は花期が長く、11月でもまだ12輪咲いているのを見たことがあります。そのせいか、北京の人々はこの花が大好きです。

 

 

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