北京雑感―33    




職場の減少



 過日、新聞に、日本の交通カード、スイカやパスモ或いはバスカード等を一緒にしておいて読取り機にかざすと、二重に引き落とされたり、エラーが出たりするケースが多発するので、早急に改善の必要があるという記事が出ていました。JR・私鉄・バス会社がそれぞれにプリペイドカードをスタートさせ、スイカ・パスモに集約されて来ましたが、共通で使えるようになるまでに随分時間がかかりました。

 この点、北京ではバス・トロリーも地下鉄も一枚のカードで済むので便利です。北京市交通部が一括で管理しているので当然ですが、時期的にはバスへの適用の方が早かったようです。バスにカードが導入されたのは、2006年初頭のようです。時期は正式に確認していませんが、敢えて間違いを恐れずに話を進めます。

 2006年6月に北京へ行った時、バスカードが便利と言われて買いました。カードは20元で、この20元はカードを返却すると戻ってきます。そこに金額をチャージして使うのは日本と同じです。そして、このバスカードを使うと、何と料金が安くなるのです。この割引は6月から始まったようで、私が北京に着いて直ぐに乗ったバスでは、3割程度の人々がカードを使っていましたが、私もカードを買った月末には、7割以上の人々がカードを使っていました。

北京市内のバス料金は、通常1元の均一料金、運行距離の長いバスは距離か停留所数によって加算され1,5元とか2元になる、もう一つは、空調バスで、これは2元からと、3種類の料金体系になっていました。カード使用には20%の割引があるので、使用が急速に広まりましたが、日本では何の割引もないので、これはすごく羨ましく思いました。この変更と同時に、2元の空調バスはなくなりました。空調バスは増えましたが、特別料金を取らなくなったのです。これもサービスの向上ですね。

バスにはカード読み取り機が設置されて便利になりましたが、地下鉄への設置は少し遅れました。以前の地下鉄料金は3元、乗り換えると5元でしたが、7月になると、地下鉄でもカードを使えるようになり、改札の女性の前に小さな読み取り機が置かれました。この機械は乗り降りの記録を取れないので、降りた駅では今まで通りフリーパスです。そのためでしょうか、料金は乗り換えても3元のままになりました。実質的な値下げです。そして、暫くすると、日本でも使っているカードの読み取り機が設置され、改札の女性はいなくなりました。それと同時に、料金が全線2元になったのだそうです。日本では、公共料金の値下げなど、久しく聞いたことが無かったので、耳を疑いました。

システム普及のために、こんなに値下げされて、利用者にはありがたい交通料金のカード化ですが、働く人々にとっては、問題が無いわけではありません。以前、北京のバスは必ず車掌さんが乗っていて、車内で切符を売っていました。2両連結のバスでは、車掌さんが二人乗っていました。それが均一料金の路線では、路線にもよりますが、連結バスでも乗り口と降り口を指定して、車掌さんを独りにしたり、甚だしいのは、運転手さんだけのワンマン・トロリーバスが走ったりするようになりました。四通八達のバス路線で、一人ないし二人の車掌さんが失職すれば、失業者の数は相当な数になります。地下鉄の改札員も然りです。

この他、私が目にした、働く人の減少は、エレベーター操作員です。初めてエレベーターのあるマンションに友人を訪ねたとき、エレベーターに乗ったら、箱の中に小さな机があり、その前に座った女性に何階に行くのかと聞かれてビックリしました。暇な時は編み物をしているそうで、編みかけのセーターを手にしながらボタンを押してくれました。当時はまだエレベーターのある建物が少なく、日本と同じ自動エレベーターなのに必ず操作員がついていました。しかし、この操作員は高層住宅が増えると姿を消し、今では利用者が自分で操作しています。インターホンや自動ドアの普及で、小区や建物の入り口にいる守衛さんの数も随分減りました。また、以前は殆ど街角ごとに、路上に店を広げていた自転車の修理やさんもあまり見かけなくなりました。皆、機械化で不要になった職業です。

そんな訳で、今、北京の就職戦線は過酷です。不景気でビル建設が中断し、地方からの農民工の仕事が減って話題になっていますが、それとは別に、北京市民でも、仕事を捜すのは大変です。3,4年前になりますが、新聞に、北京大学修士課程を終了した人が餃子屋さんで働いているという話題が載っていました。勿論これは特殊な例でしょうが、ニュースの趣旨は、高学歴の人でも仕事を捜すのが難しくなっていると言うものでした。

発展が著しい中国ですが、発展により発生する問題も少なくないようです。人口が多いだけに、小さな現象も大きなうねりになる危険性を孕んでいて、中国政府の舵取りを一層難しくしています。「胡錦濤主席のお手並み拝見」と言うところですね。


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