北京雑感―25   北京の工事現場

 

 2000年以来、北京での土木・建設工事現場を眺める機会があって、日本と北京では、工事に対する考え方が随分違うと感じ、初めて現場を目にした時は、本当に、「目が点になる」ような驚きを覚えました。21世紀に入ってからの中国各方面の進歩は著しいので、今は違うかも知れませんが、ちょっと旧聞となる、私の体験をお話します。

 2000年頃、大学内のメールアドレスを取得するために、大学本部へ出かけました、建物は約100年前の大学創立当時に、ソ連の技術者の協力で建てられたそうで、堂々としていましたが、内部は薄暗くて、工事をしているようでした。受付で話を聞くと、事務は中で行っていると分かったので、工事現場を通って事務室まで行きました。その工事は、壁の塗り替えとか、電気の配線工事とかではなく、廊下の床を掘り返し、天井や壁を打ち抜き、階段を新設するような大工事で、足元には工事現場独特の、幅30センチ足らずの板が渡してあり、来客も薄暗い中を足元と頭上を気にしながら、その板を歩いて事務室まで行くのでした。

 こんな工事の中、事務所は騒音がひどいだろうと思ったのですが、建物が頑丈に出来ているせいか、部屋の中に入ると音は殆ど気になりませんでした。それにしても、日本だったら、このような状態で事務は執らないし、工事も行わないでしょう。事務職員の出入りは不便だし、第一工事が捗らないし、安全が保てないと思うのですが、中国では建物を閉鎖するという考えはないようです。覚束ない足取りで板の上を歩いていたら、工事をしている職人さんが、“小心点儿!”と声を掛けてくれただけでした。

 また、四環北路が出来て間も無く、その道を歩いていると、歩道に縦横2メートル、深さ1メートル程の四角い穴がありました。見ると、歩道の車道側に等間隔で開いています。どうやら街路樹や街灯の為のスペースのようです。ところがこの穴に、何の目印も無いのです。穴の淵まで綺麗に舗装されていて、遠目にはそこに穴があることは分かりません。近くへ来て初めて、「あ、穴だ」と気が付きます。昼間歩いている分には、空を見上げて歩かない限り支障はなさそうですが、自転車に乗っていれば、気が付かないで自転車ごと落ちてしまいそうです。まだ街灯が設置されていないので、夜間は危険です。工事中のサインとか、せめて赤い旗をつけた竹竿でも立っていれば気を付けるでしょうが、この現場には、何も目印がありませんでした。広い、出来たての歩道が続いているので、地域に不案内な人が自転車でやって来て、スピードを上げて走ったら危険です。特に、目の不自由な方にとってはとても危険だと感じました。

北京では、目の不自由な方々に対する配慮がまだまだ足りないと思います。最近補修された道路には、点字ブロックが埋められるようになりましたが、この点字ブロック、設置の趣旨が分かっていないのではないかと思うようなのもあります。ある時、50センチ足らずの細い歩道に設置されていたのを辿っていくと、電信柱にぶつかってしまいました。道が細いので一旦車道に下りなければ通れません。そんな指示は何も無くて、電信柱の向こう側から、突然また点字ブロックが続いていました。明らかに、この表示が必要な方々のことは考えていないで、「決まりがあるから設置した」と言わんばかりの工事でした。尤も、日本でも、折角設置しても、ブロックの上に自転車や商品を置いて、安全な使用が出来なかったりしますから、大きなことは言えませんが。

 もう一つ、北京の街角でよく見かける工事は、歩道の修復です。ご存知のように、北京の歩道はコンクリートブロックや煉瓦を敷き詰めてあるところが多いのですが、このブロックに沈んだところがあって、地面が凸凹しているのをよく見かけます。折角綺麗に仕上がったのに、一度雨が降ると、もうグラグラして、すぐ沈み始めます。

 ある時、家の近くのバス停付近で、歩道の工事をしていました。通行が制限される訳でもなく、人々が普段通りに歩いたり、バスを待ったりしている所で、作業が始まりました。ブロックの下は、砂を含んだ土で、一応平らに均されているのですが、人々が勝手に歩くので、かなり凸凹して来ます。それでも作業は構わずに続けられます。日本だったら、必ず、バス停を移動させたり、作業地点にロープを張ったり、柵を設けたりして立ち入り禁止にして作業をすると思います。

 バス停付近での仕事を、バスを待ちながら見ていましたが、作業員は素人が多いようで、下地が平らでなくてもブロックを並べ、高低の差がついた所では、周りの土をかき集めて下に宛がい、その場で高さが揃えばそれで良しとしてそのまま次に移ります。これでは、完成した時は平坦で美しくても、一度雨が降ると、すぐ凸凹になるはずです。   

皆が皆こんな作業をしているわけではないのでしょうが、こんなことが多いのでしょう。北京の凸凹歩道の秘密が分かったような気がしました。
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