北京雑感ー23    北京人のお行儀  V   

トイレ

 

 お行儀を云々すると、個人ベースはともかく、「北京人の」などと言うと、「お行儀は、その国の生活習慣が影響するものだから、部外者がとやかく言う筋合いのものではない」との批判を受けそうです。

 確かに、生活習慣の違いから、私たちが見ると「おや?」と思うことも多々あります。例えば、中国の方は食器を洗った時、濡れたまま戸棚にしまいます。何だか戸棚の中で汚れを呼びそうで気になりますが、乾燥が著しい北京では余り不都合は無いのでしょう。時々レストランなどで、新しい食器が来ても、底に水分が残っていることがあります。レストランは忙しいから拭かないのかと思っていましたが、家庭でも食器を拭く習慣は無いようです。レストランで濡れたものが出てきたらペーパーナプキンで拭き、乾いていても汚く感じたものは、お茶などを少し注いで洗い、その水を床にこぼします。

 日本人が見ると、お行儀が悪いと感じますが、中国の人達は永い間の習慣で、そうするのが普通です。然しながら、最近新しく出来たレストランでは、床に綺麗なタイルが張ってあったり絨毯が敷いてあったりして、水分を床にこぼすのは憚られます。今に中国でも、床に食べ滓や水分を落とすことはお行儀の悪い事になって行くことでしょう。

 そんな訳で、生活習慣に根ざすやり方に、外国人が「お行儀が悪い」と一概には言えませんが、其処のところを考慮しても、「ちょっと…」と眉を顰めたくなることがあります。それが、中国の方のトイレ使用法です。

 皆様ご存知の通り、中国の地方のトイレは仕切りが無くて、オープンですよね。これこそ昔ながらの習慣で、外国人がとやかく言うことではないでしょう。しかしおかしいのは、都会の洒落たレストランやデパートのトイレで、ドアがあるのに開けたままで用を足している若い女性がいることです。家庭でも、親しい友人同士ではトイレのドアを開けたままで話しながら用を足すこともありますから、これも習慣でしょう。そのせいでしょうか、都会のトイレでもドアが壊れていたり、鍵がかからなかったりすることが多いですね。北京の人々はハンカチを持ち歩く習慣が無いので、トイレにはエアドライヤーの設置が目立ちますが、これも9割方壊れています。水道の蛇口が壊れていて水が出ないこともあります。日本式に考えると、施設を壊れたままでおいて置くのが不思議ですが、これも、すぐ壊れる器具に対処するための施設管理者の習慣と思えば腹も立ちません。

 しかし、清潔と言う観点から言えば、中国の人達のトイレに対する感覚を疑います。水道が壊れているのに、床はビショビショだったりします。一度、山西省の平遥へ出かけた時、街中で有料トイレを利用したことがありました。5角払って入ったのですが、中は何年も掃除がされてないような有様で使える状態ではありませんでした。係の人に文句を言いましたが、知らん顔をされてしまいました。料金を取るからには、それなりの管理をしていると思いますが、中国では必ずしもそうとは限りません。そういえば、違う時に、もっと田舎のパーキングエリアで、トイレの前におばさんが座っていて3角取られました。塀の後ろに回ると、屋根も無いようなトイレでした。出て来て文句を言おうと思った時には、おばさんはもういなくなっていました。聞いてみると、元々無料のトイレなのに、時々地元の人が座って料金を取っているのだそうです。

 どうも、中国の人々のトイレに関する考え方は、この延長線上にあるようで、折角良い施設を作っても、清潔にして提供しよう、汚さないように使おうと言う意識が薄いようです。勿論、北京中心部の政府機関や外国企業のビル、高級ホテル等は別ですが、市民がよく利用する一流デパートや大きな本屋さんでも皆、設備は良いのですが、使い方が悪くてあまり清潔ではありません。

 北京国際空港搭乗口付近のトイレは、3,4年前までは良かったのに、最近はかなり汚れが目立つ気がします。中国人団体旅行が増えたせいだと考えるのは偏見でしょうか?実際のところ、一人旅(と言っても、たかだか北京−成田の往復だけですが)の時、機内持ち込みの荷物が両手にあるとトイレに行くのを躊躇します。私自身、汚れに対して余り敏感な方ではないのですが、中国のトイレはゆっくり入れません。成田に着くと、スーツケースを受け取る前に必ずトイレに入って、日本に着いたことを実感します。

 中国で唯一清潔なトイレに感激したのは、九寨溝です。水洗ではない洋式トイレでしたが、ビニールの袋状シートが便座と壷を覆い、次の人が入ると前の分をシールして下に落とし、新しいシートが便座の上に出て来るのでとても清潔でした。しかも係員が頻繁に回って目を配っていました。水洗には出来ない世界遺産九寨溝だからこの方法ですが、都会では、今ある施設で、使用方法を啓蒙するしか、トイレを清潔に保つ方法はないでしょう。

 

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