北京雑感ー22  北京人のお行儀 U  

 

街角で

 最近の北京では、犬を散歩させている人を多く見かけます。犬の大きさによって払う税金の額が違うそうで、また室内で飼う関係から、小型犬が殆どです。以前は犬を散歩させること自体がステイタスシンボルでしたが、小型犬は一般化したので、最近は時々、大型犬を散歩させてそのステイタスを誇示するお金持ちを見かけるようになりました。犬の大小に係らず、連れ歩いている人達は手ぶらです。日本のように、“犬の落し物始末用具”を用意していません。それでも不思議なことに、犬の落し物があまり目に付かないし、不快な思いをすることもありませんでした。

 ところがある日、朝早く出かけたところ、道端に犬の落し物がいっぱいで余程気をつけて歩かないと踏んでしまいそうで大変でした。驚きましたが、すぐ思い当たることがありました。普段出かける時は、市の清掃員が朝早く、前夜からの諸々のゴミを掃除してくれた後なので、街の汚れに気付かずにいられたのです。北京には、自転車でごみ収集箱を引きながら巡回してゴミを拾い集めている清掃員が大勢います。この人達のお陰で、北京の街は清潔に保たれているのですが、反面、敢えて言えば、この清掃員がいるせいで、北京の人々は気安く街を汚すのだと思い当りました。

 随分前に、胡同の一角に住むご老人のお宅にお邪魔したことがあります。その床はたたきになった地面そのままで、食事の時は、魚や鶏の骨、枝豆の鞘など食べ滓をテーブルの下に落とします。食事が終われば、すぐにお手伝いさんが床を掃き清めますが、初めての時は違和感を覚えました。また、友人の家も以前は床がコンクリートで、同じようにしていました。しかし、4,5年前に室内を板張りやタイル張りにすることがブームとなり、今では、殆どの家が改造をして、食事で食べ滓を床に落とすことはなくなったようです。

 今、レストランで食べ滓を床に落とす人は少ないですが、テーブルに直に置くのは普通のことです。ごく高級なレストランは別にして、テーブルにビニールのカバーをしているお店が多いのですが、そのビニールは極々薄いものが何枚も重ねられていて、お客さんが帰ると、食器を片付けて、テーブルは拭かないで、薄いビニールを一枚剥がします。それでテーブルはすっかり新しくなって、次のお客を迎えることが出来るわけです。ウェイトレスの労力は省けるし、お客さんには清潔なテーブルを用意できるので多用されています。テーブルに食べ滓を直に置く習慣から、こんな方法が考案されたのでしょうが、明らかに資源の無駄遣いです。

 この様なレストランでは、さすがに床に食べ滓を落とす人はごく稀です(皆無ではありません)が、朝食を食べさせる小さなお店では、この食べ滓を床に落とす習慣がまだ残っていて、凄まじい光景が見られます。大抵のお店は、竈を店の外に出して包子を蒸し、油条を揚げて、各種お粥、豆腐脳(豆腐を、薄いしょうゆ味できのこなどが入った葛餡たっぷりの中で暖めたもの)、茶卵等も用意しています。人々は入り口で好きなものを注文して、自分で空いたテーブルまで運んで食べるのですが、その店内は、足元に割り箸の袋や卵の殻が散乱しています。後から来た人々は、床に散らかったものの上を平気で歩きます。店の人は、食器が足りなくならないとテーブルを片付けに来ません。食べ物を持った人は空いた食器を脇にどけて、汚れたテーブルは備え付けのトイレットペーパーで拭いて、その紙を床に落としますから、益々汚れます。朝早くから開いていて、勤め人は出勤前に、老人たちは朝の運動の後でと、人々が便利に利用しています。味もなかなかなものですが、神経の細やかな人には勧められません。

 又ある時、蓮の花を見に蓮花池公園へ朝早く出かけたら、もよりの六里橋バス停付近で大量のゴミを目にしました。その量が桁外れだったので、後で北京人の友達に聞くと、「六里橋は北京西駅に近いので、汽車に乗り降りする人が野宿したのだろう。」とのことでした。そう言えば、ここを走る路線は多くて、どの路線にも朝早いのに人が大勢待っていました。つまり、前夜遅く北京西駅に到着した人達がここで夜を明かし、朝一番のバスで北京郊外へ出かけたと言うことのようです。一晩大勢の人がここに留まっていたのなら、あの凄まじいゴミの量にも納得がいきます。言うまでも無いことですが、花を見た帰りには、ゴミは無くなっていました。

 北京では、ゴミのポイ捨ては日常茶飯事のようです。北京の人達はゴミを捨てても、清掃員が片付けてくれるので、その行為を問題だとは思わないのでしょう。日本でもゴミのポイ捨てが問題視された時期がありましたが、日本には公的な清掃がないので、自分達で気をつけるようになり、ゴミを捨てない習慣が身に着いたと思います。北京でも、清掃員がいなくなれば、ゴミをむやみに捨てなくなるのではないでしょうか?時間はかかるでしょうが。

 

 

 

 

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