北京雑感ー19  北京の甘栗    

 

中国から輸入された栗は、日本各地で甘栗として加工され販売される時、“天津甘栗”と称していますが、これは、皆様既にご承知のように、中国の栗の集散地が天津だからで、天津が栗の主産地というわけではありません。では、本当の産地がどこでしょうか?“北の方の山地ならどこでも出来る”というのが正解でしょうが、こと北京の甘栗に関しては、“懐柔県の栗が最高”というのが正解です。

懐柔県は、北京市の最北部で、河北省に突き出た所です。県の中心部は一番南にあり、皆様ご存知の慕田峪長城は、そこから少し北ですが、まだ県南部です。懐柔県は、それからずっと北に伸びています。つまり、懐柔県の四分の三は長城の外側にひろがっているのです。いかにも栗が沢山採れそうな土地柄です。

今年の甘栗の価格は、1斤(500g)89元(1元≒16円)が相場ですが、“懐柔の栗”と言うだけで110元です。勿論、10元で買っても虫食いが多かったり、美味しくなかったりするかと思えば、8元で買ったクリが、ちょっと小粒だけれど美味しかったりと、色々で、美味しいクリに中るのはなかなか難しいものです。因みに、日本では、小粒でも美味しい栗は評価されますが、北京では小粒はあまり評価されません。

美味しい栗になかなか中らないので、中国の友人に、どうやって美味しい栗を見分けるのか聞いたところ、友人は、“その場所で焼いていて、買う人が並んでいる所が美味しい栗を売る所”と言います。このご尤もな意見に従って、バスで外出した時は、必ず窓の外を眺めて、人の行列や栗の看板を探しましたが、なかなか見当たりません。何日かきょろきょろしているうちに、段々思い出してきました。以前、118のトロリーに乗っている時、“あそこの栗は美味しいよ”と教えてもらった事がありました。それで、気をつけて見ていると、ありました。大きな看板に“秋”と“栗”の字が鮮やかに描かれています。“これだ!”と思って看板の下をみると、人が沢山並んでいました。この店に間違いありません。バスは東から西に走っていて、バス停を出てすぐにありましたから、次のバス停に気をつけていると、「北海公園北門」と言いました。家に帰って調べてみると、最寄のバス停は「地安門路口東」で、お店は、地安門大街の南西の角にあるのでした。

この道は何度も通っていたのですが、あの看板にも人の行列にも気が付きませんでした。あの看板は真新しいものでしたから、最近、栗の季節になってから書き換えたものだろうと想像しています。前にはどんな看板がかかっていたのか覚えがありませんが、栗がなければ人の行列もないので、目立たないお店だったのでしょう。栗のないときは何を売っているのでしょうか、それも気になりました。

何はともあれ、翌日早速、栗を買いに出かけました。朝から小雨が降っていて、お店に着いたのは11時半頃でしたが、20人近くの人が並んでいましたので、列の後ろに着きながらお店を観察しました。お店は歩道から一段上がっていて、窓口を設けてあるだけで、店の中には入れません。買う人の行列は、この窓口の前に横一列に並んでいるのです。窓から中を覗けますが、列の後ろの方から見えるところでは、ポップコーンを作っていました。出来上がったポップコーンに、マジパンのような、熱で溶けるものを塗して色を着けていました。ポップコーンの欲しい人は、勿論、この辺りで買うことが出来ます。列が少し進むと、そこは各種瓜子儿や、胡桃、落花生等いわゆるナッツ類を売っていました。推量するに、栗のない季節には、これらの品物がメインの商品なのでしょう。

物珍しさにキョロキョロしていると、行列の進みが思いのほか速く、15分ほどで栗の窓口に到達しました。販売員の後ろで、大きな中華なべのような容器が4っつ並んで、盛んに栗を焼いています。作り方は日本と殆ど同じで、小さな石のと栗が混ざって、お鍋の中でぐるぐる回って、良い匂いを発散していました。沢山焼いていましたが、売る窓口は一つで、独りの販売員が、次々と注文を聞いて計って紙の袋に入れます。栗が熱いので袋の口は閉めずに渡します。貰ってすぐ食べ始める人がいるかと思えば、紙袋を45個ビニールの袋に入れて持ち帰る人もいます。並んでやっと買った、暖かい栗に、みんな幸せそうな顔をしています。

私も、念願の「焼きたての栗」をやっと手に入れた時、小雨はもう止んでいて、気持ちも晴れ晴れしてきました。この後、私は栗を抱えたまま、118で平安里まで戻り、新街口北の徐悲鴻記念館に行きました。徐悲鴻の絵も素敵でしたけれど、今日は、芸術の秋より味覚の秋のご紹介をする積りですから、ここは割愛します。

新街口大街を北上するバスの中から、2軒の栗屋さんを発見しました。今まで見つからなかったのに、見つかりだしたら次々と目に付きだしたから不思議です。でもこれは、どうやら、地域的に偏りがあるせいではないかと思えます。やはり、甘栗屋さんは、古い町並みに似合います。

今日の栗は、柔らかくて、甘くて、虫食いは無くて、文句なしに美味しく頂きました。
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