北京雑感ー18 北京の焼き芋  

 

暦とは素晴らしいものですね。人類が何千年も過して来た日々の中で、自然から学んだ事実のエッセンスなのでしょう。

7月の末、天気はぐずついていましたが蒸し暑く、夏はまだまだ続く気配、と感じていました。ところが、北京の老人の一人が、「暑さは、あと一週間もすれば収まるよ」と言うのです。半信半疑で聞いていましたが、88日の立秋を過ぎると、本当に、朝夕涼しい風が吹くようになりました。日中は相変わらず暑いのですが、暑さの猛々しさが和らいだ気がしました。昔からの知恵で、「このころには秋が始まる」という時期なのでしょうが、今では気象自体が暗示にかけられて、「立秋」と言う字を見たら秋風を吹かせなければと思っているように見えます。

秋は実りの季節でもありますね。日本だと、果物屋さんの店先で秋を感じる事が多いと思いますが、北京の果物は、日本より収穫の時期が長いようで、秋になって特別果物が多くなる事はありません。桃などは、6月末から出回り始め、未だに売られています。さすがに一時期よりは少なくなりましたが、スイカもまだ売られています。これは、中国の国土が東西南北に広くて、流通が発達した今日では、特に驚く事でもないのでしょう。

この桃、日本とは少し様子が違います。勿論、桃を縦に潰した様な平べったい桃もありますが、それとは別に、形は日本の桃と全く同じなのに、少し違うのです。何がどう違うかと言うと、中国の桃は、固くても甘みがあるのです。日本では、昔、果物屋さんの店先に、「桃を指で押さないでください」なんて張り紙がしてありましたけれど、桃は柔らかいのが美味しいので、つい押して調べたくなります。柔らかくないと、歯触りがガリガリで、甘味も少ないものが多いですから。ところが、北京の桃は、硬くても、噛むとしっとりして、甘味も十分にあるのです。特に硬いのを避けなくても、十分美味しくいただけます。一番初めにこの桃を頂いた時は、硬いので、美味しさを期待しなかったのですが、口に入れると、ちょっと歯応えがあって、しかも日本の柔らかい桃と同じように美味しかったのでビックリしました。因みに、中国の方は、果物の皮は剥かずに食べます。値段は、高い所で1斤(500g)2.5元、安い所で3斤(1.5kg5元でした。

北京の果物は何時も豊富ですが、季節で中身が変わります。9月になると、桃が少なくなり、暫く前から出始めた葡萄や梨、リンゴが多くなります。先日は、ピンポン玉くらいの、赤いみかんのような形をした柿を始めて見ました。暫くすると、富有柿のようでいて、高さの中ほどに括れがある柿が出てきます。中国の柿は、量も少なく、色もあまり美味しそうではないので食べた事はありませんでしたが、あのピンポン玉のような柿は、色も形も食欲をそそるもので、機会があったら食べて見たいと思いました。

秋の主役は、なんと言っても、焼き芋と甘栗です。北京の焼き芋屋さんは、自転車の横にドラム缶を積んでやって来て、街角で売っています。ドラム缶の中では薪が燃えていて、お芋はその中に入れて焼きます。そばを通るとほわっと暖かく、いい匂いがします。大学やバス停の回り、歩道橋の付近には必ず見かけるようになりました。ただ注意しないといけないのは、出かけた折、行きがけに家の近くで見かけて、帰りにあの人から買おうと思い、途中買わずに帰ると、目当ての焼き芋屋さんはもういないと言う事がしばしばです。道路上で物を販売する事は正式には禁止されているようで、公安などが取締りを始めると、さっといなくなってしまいます。でも、暫くするとまた違う人が売っています。繁華街で、通行の妨げになる事もあるので、ある程度の取り締まりは必要でしょうが、これらのお店が全くなくなってしまったら、町を歩くのがつまらなくなります。邪魔にならないお店は大目に見て欲しいと思います。

さて、この焼き芋がまた、日本と少し違うのです。日本のは、ホクホクしているのが美味しくて、急いで食べると喉を詰まらせそうになりますよね。北京のは、赤みが濃い黄色で、ねっとりしていて甘味がとても強いのです。皮が火脹れを起こした下には、ちょっと焦げ目の付いた、半透明のお芋があって、なんともいえない歯触りと香りと甘味を楽しめます。これはお芋の種類によるのでしょうね。

一度、日本からの仲間と九寨溝へ行った帰りに、成都で、「中国の焼き芋は美味しいから」と前宣伝をして買ってみたのですが、私がイメージした美味しさではありませんでした。成都のは、日本的な美味しさでした。私としては、「秋刀魚は目黒に限る」と同じで、「焼き芋は北京に限る」と言う心境で、北京の焼き芋を是非食べて欲しいと思いました。

今年、北京の焼き芋は、大体13元が相場だそうです。かなり大きなお芋でも、100円以下で食べられます。特別美味しいのにあたるかどうかは、貴方の運次第です。
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