北京雑感−16  市民生活          

 

 一年の半分を北京で暮らしてみて、北京は物価が安くて暮らし易い所だと実感していますが、最近は、豚肉や卵の値段が著しくあがって、政府が値上げ幅を低く抑えようと必死になっていると伝えられています。北京の物価が安いと言っても、日本円に換算してみて、日本の平均所得で生活する時の話であって、北京市民にとっては、そこそこの物価だったのでしょう。それが、私が見聞したここ5,6年の間に、物価はじわじわと上昇して来ていました。

 先ず、タクシーの値上がりです。初乗りの10元こそ変わりませんが、追加距離あたり、以前は1.2元と1.6元の2種類あったのに、徐々に1.2元の車を見かけなくなり、一昨年、新しい車両が導入されてからは、一律2元になってしまいました。

夏になると、産地から大きなトラックに山積みして来て、テントに寝泊りしながら全部売りつくすまで頑張るスイカ売りも、以前は、5003角から4角だったものが、だんだんに値上がりして、昨年は8角というのが一般的でした。今年は、果たしていくらになっているでしょうか。勿論、この値段は時期や場所によっても異なりますが、確実に高くなっているのは事実です。ハッキリした値段は分かりませんが、卵の値段も、2,3年まえから“高くなった!”と言う声を聞いていました。

今まで、いろいろな物が少しずつ高くなっていましたが、新聞で取り上げられることは無かったと思います。このたびの新聞報道は、値上がりしたのが、市民生活の必需品である豚肉であったことと、今までの物価上昇が市民の許容の限界を超えそうなことから、政府が物価抑制の姿勢を鮮明にする必要があったためではないかと考えます。

確かに、日本人の平均所得は、北京市民の平均所得より高いので、今、豚肉が幾ら位に値上がりしているのか分かりませんが、まだ日本より安いと感じることでしょう。一部の中国人は、平均的日本人よりずっと多い収入を得ているので、そういう人々にとっては、北京は、まだまだ暮らし易い街です。しかし、大部分の北京市民は、平均所得が何百元かで暮らしているので、利用頻度の高い豚肉の値上がりは、生活に重大な影響をもたらします。

北京オリンピックに向けて、マンションや別荘地の値上がりが話題になっていますが、一般市民には関係の無いことで、タクシーの値上がりも、利用しなければいいのですが、食料品は、高くなったから買わない、と言うわけにいかないので、市民の生活を護る行政府としても放置出来なくなって来たのでしょう。政府の努力で、物価がどのあたりで落ち着くのか、今年もこれから北京へ出かけますので、しっかり見てきましょう。

ところで、一般の北京市民の収入はどの位がご存知でしょうか?私の友人たちは、どちらかと言うと、北京では収入の多い部類に属していますから、彼らの生活を平均的市民のものと言うことは出来ません。一つだけ、平均的市民の収入を知るヒントは、お手伝いさんに関する情報です。

北京で中流以上の生活をする人々は、よくお手伝いさんを雇います。お手伝いさんとして働く人々は、地方の出身者が多く、北京では安徽省の人を多く見かけます。その他にも、河南省とか福建省の人達もいます。また、雇い主の故郷から、親せきの紹介でやってくる人達もいます。親せきの紹介で来る人を除き、一般のお手伝いさんは、お手伝い紹介所に籍を置いて、雇い主が現れるのを待ちます。

お手伝いさんを雇いたい人は、紹介所に200元ほどの手数料を払って、人を回してもらいます。若し、来たお手伝いさんが気に入らなかったら、1年間に限り、何回でも違う人を紹介してもらうことが出来ます。これは住み込みのお手伝いさんで3食付、初任給は、現在、600700元程です。この金額も、4,5年前には300400元でしたから、随分あがったことになります。

お手伝いさんのもう一つの形態は、北京に所帯を持っている人が、時間単位で働くもので、現在の時給は7元程です。これも、私が知った時は、時給2元でしたが、瞬く間に、4元になり5元になり、今は7元です。こちらの方は、1時間単位で、何曜日と何曜日に何時から何時までと約束をして働きます。人によっては、朝から自転車で走り回って、一日に2軒も3軒も掛け持ちをします。食事や寝るところは自分で負担しますが、一日に7時間も働けば、1ヶ月で1000元以上になります。北京市民の平均所得よりも良いそうで、夫婦で働いて、子供を大学に上げ、故郷に家を建てる人達もいるそうです。現在北京では、大学を卒業した人達の就職難が深刻ですが、お手伝いさん市場に関しては、需要も供給も拡大しつつあるように見えます。

大学卒の初任給でも、1000元以下が多いので、平均的な北京市民にとって、北京の物価は特別安いわけではありません。所得の伸びが物価の上昇に追いつかなければ、市民の生活はますます苦しくなります。物価の鎮静化は、政府の最大の責務と目されます。
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